大阪高等裁判所 昭和53年(う)903号 判決
論旨は,神戸税務署長が昭和42年1月31日付でした被告法人の本件起訴にかかる両事業年度分の青色申告承認の取消処分及び右両年度の法人税の各更生処分,重加算税賦課決定処分は,神戸税務署長により同49年11月15日,青色申告承認の取消処分が,又大阪国税不服審判所長により同50年1月30日法人税更生処分及び重加算税の賦課決定処分がそれぞれ取消処分を受けたところ,青色申告承認が取消されたときは取消対象事業年度における青色申告の特典喪失分は遡って課税対象となるばかりでなく犯則所得を構成する(昭和49年9月20日最高裁判所第二小法廷判決)ことから考察すると,青色申告承認の取消処分が更に取消された場合は最初の取消にあたって勘案の対象となった本来の犯則所得及び青色申告の特典喪失によって発生した犯則所得の全てが一体となって犯則所得たる性格を喪失する結果となることは法的権衡上当然の帰結である。
しかも,逋脱税額算定の基礎となる各更生,決定処分が取消された以上,当然当初の法人税の申告が是認されたことになり,最早具体的な逋脱税額を算定する根拠を喪失し,逋脱の罪を確定することもできないのである。したがって本件は被告事件が罪とならないときに該当し無罪である。
しかるに,前記各更生決定処分の取消処分は単なる徴税上の手続の欠陥を理由とするもので,実体上被告法人に逋脱の事実があるかどうかとは別個の問題であるとした原判決は法人税法の解釈を誤り事実を誤認したもので,破棄を免れないというのである。
よって検討するに,関係証拠によると,法人税につき青色申告の承認を受けていた被告法人(昭和43年4月26日有限会社の組織を変更し株式会社となる。)は,法定の期間内に神戸税務署長に対し,昭和38年10月1日から同39年9月30日までの事業年度における所得は2,041,088円で,これに対する法人税は673,100円である旨,又同39年10月1日から同40年9月30日までの事業年度の欠損金は18,091,692円で,還付税額は3,700円である旨の各法人税確定申告書を提出したところ,前同署長は同42年1月31日付をもって,被告法人の右両年度の青色申告承認の取消処分をすると共に右両事業年度の法人税の更生処分及び重加算税の賦課決定処分をしたが,前同署長は同49年11月15日前同両事業年度分の青色申告承認の取消処分をなした。そして,大阪国税不服審判所長は同50年1月30日付をもって,神戸税務署長が法人税の青色申告の承認の取消処分を取消したことにより前同両年度分の各更生処分は青色申告に対する更正として取扱うべきことになるから,更正通知書には法人税法130条2項又は旧法人税法(昭和40年法律34号による改正前のもの。)32条に規定する更正処分の理由が付記されねばならないのに,これを欠いているから違法な処分となり取消を免れないし,重加算税の各賦課決定処分については,各更正処分の取消に伴いいずれも取消すべきであるとして更正処分及び重加算税賦課決定処分を取消したことが認められる。
ところで,国税について,税法の規定する課税要件が充足されることにより国と納税義務者との間で法律上当然に発生する抽象的租税債権(正当税額)と,納税義務者が現実に負担すべき具体的租税債権(確定税額)とは本来は一致すべきものであり,法人税法においても原則として納税義務者の確定申告により正当税額が確実に納付されることを期待しながら,申告が法律の規定に従っていないときなどの場合には税務署長において申告税額を更正することができるが,右処分は徴税すべき税を確定するための行政上の手続にすぎず,租税債権成立のため必要不可欠なものでなく青色申告の承認あるいはその取消,更正処分の取消も徴税手続上の問題と解すべきである。
従って,法人税法159条1項(旧法人税法48条1項)にいう「税を免れ」とは徴税手続により具体的に確定した法人税の納付を免れるという趣旨ではなく,過少な税額を記載した確定申告書を提出するなどして,納付すべき確定税額をことさら正当税額より僅少に確定させて差額部分に対する納税義務を免れようとすることをいうものと解すべきであるから,課税要件の充足により既に成立した抽象的租税債権について徴税手続の過誤により,これを具体的租税債権として確定することができなくなり,国において確定申告の税額をこえる部分について課税権を行使することができなくなったとしても,偽りその他不正の行為により当時存在していた抽象的租税債権そのものを免れた以上,直ちに法人税法159条1項(旧法48条1項)の逋脱罪が成立し,その後の行政処分の如何により犯罪の成否が左右されるものではないというべきである。
してみると,右と同旨の見解によって弁護人の主張を排斥した原判決に法令の解釈を誤り事実を誤認した違法はない。以上と見解を異にする所論は畢竟独自の見解であって採るを得ず,論旨は理由がない。